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電気トラック株ニコラ Nikola・スキャンダル後の4つの着眼点まとめ

発明家ニコラ・テスラ Nikola Tesla のファーストネームを社名にとり、テスラの対抗馬と一時は市場の注目を集めたニコラ社 Nikola Corporation (Nasdaq: NKLA)

創業者トレバー・ミルトン Trevor Milton の詐欺容疑で一転して、嫌疑の的に落ちたのが2020年9月のこと。SPAC(特別買収目的会社)VectolQ との合併による上場から、わずかに数ヶ月のことでした。

セクター全体感として水素燃料電池とりわけトラックについては強気になりたいところですが、個別銘柄としては相当に手垢と疑念がついてしまっています。そこで、以下のように整理していきます。

目次

  1. Nikola 創業者のスキャンダル後 ① 組織内部(当時の幹部は残っている = ディスカウント要因)
  2. Nikola 創業者のスキャンダル後 ② 他社提携関係(拾う神もあり)
  3. Nikola 株の需給(創業者の売りもこなしていけそう)
  4. Nikola 事業の現レベルと株価判断(生産台数を予定通り伸ばせるかに注目)

(ご参考・業界全体感のまとめ記事「水素燃料電池銘柄の本命・トラック関連株」

1)ニコラ Nikola 創業者のスキャンダル後 ① 組織内部(当時の幹部は残っている = ディスカウント要因)

CNBC の YouTube チャネルより。GM 提携発表時の創業者とGM CEO

2020年9月に GM との技術提供の見返りに 11%(当時20億ドル)の株式を GM が受け取るという事業提携が発表された数日後に、それまでのプレゼンテーションが嘘だったことを告発する Hindenburg Research のレポートが出て株価は暴落。創業者トレバー・ミルトン Trevor Milton は辞任しまして、GM との提携も大幅に見直されることになりました。(注: Hindenburg Research には Nikola 株のショートポジションあり)

虚偽とされる内容は、トラックが走っている映像が実は下り坂を走らせていたということ(笑)、トラック運転席のタッチパネルのコントローラーが実はただのタブレットだったこと、など。

いまだにネットのコメントを見ていると、同社はこのためにかなり嫌われているようで、株式投資の上では逆にチャンスと言えるでしょう。

しかし、「この会社は組織として信用できるのか」という疑問が残ります。

Hindenburg Research が2021年Q2決算の前に以下のような興味深いツイータをしています。なんと当時の幹部はそのまま残っているのです。CEO はじめコンプライアンスのトップまでもが残っているのは、新陳代謝ができているとは言えません。もっとも Nikola は SEC(米証券取引委員会)に対しては $125 m の和解金を支払うことを先日(2021年12月21日)発表したばかりではあるものの、罪については容認も否認もしていません。その意味では、創業者以外の引責辞任は必要ないという立場なのでしょうが、何とも釈然としない気がします。

Hindenburg Research のツイートより。創業者とベッタリだった経営陣への追及を緩めていない。

ただし一方で、Hindenburg Research の今回のツイートには公平ではないと思わされるところがあります。2020年の報酬額として、たとえば CEO の Mark Russell 氏について $159 m と出ていますが、これはアニュアルレポートを見たところでは (Item 11. Executive Compensation) 現在の3倍の株価が行使価格のストックオプションなど株式系の報酬の合計です。たしかにすごい金額ではありますが、逆に SPAC との合併による上場後は現金報酬は一同年間1ドルとも出ていますので、Hindenburg のこの書き方はフェアではないと言えます。

ストックオプションの規模感はさておき、まだ売上の立っていない赤字会社の経営者が将来の株価上昇をインセンティブにして無給同然で頑張るというのは、まともなことだと思います。

末端の従業員はどうでしょうか? YouTube では熱いチームワークを感じさせる動画があります(例えばこのリンク)。中でもこの技術者の方の涙ぐむ様子には、苦難を乗り越えて前に進む社内の空気感を想像しないではいられません。(もっとも先述の 2021Q2 決算説明会の冒頭のビデオにも使われていて、少しいやらしいなとも感じましたが)

結局スッキリはしませんが、製品が安定して納入されて、ハッピーな顧客のフィードバックを早く聞きたいように思います。

2)ニコラ Nikola 創業者のスキャンダル後 ② 他社提携関係(拾う神もあり)

GM については提携に見直しが入ったと書きましたが、他のビジネスパートナーはどう動いたのでしょうか? 一緒に働いている会社ならば、我々よりもはるかに正確にニコラの真実が分かるはずです。彼らの去就を調べてみました。 

Bosch GmbH(非上場): “Fuel cell truck” で検索すると、広告を除いて一番上に出てくるのは、なんと Bosch が Nikola に献身的な技術協力をしているというページ。これまで200人以上のスタッフを派遣し、大型の Nikola Two モデルには、ボッシュ製品が 35個使われるのだそうです。ただし、資本関係は元々薄く、ニコラの SPAC合併・上場時に、ボッシュ関連会社の Nimbus Holdings LLC から $25m のシリーズB 優先株が買い戻されて、現在では資本関係はないようです。つまり、スキャンダルの少し前から、技術と製品のみの関係。

IVECO S.p.A. (非上場): イタリアのトラック大手。親会社は CNH Industrial (BIT/NYSE: CNHI)。2019年から提携。ニコラ株保有は 6.5%。$250m のシリーズD 優先株を供与し(うち $100m のみキャッシュ、$150m は技術供与代)。2020年にはドイツ・ウルムに Nikola Iveco Europe GmbH というトラック製造 JV を設立。2022年に年間2000台の生産を目指す。IVECO 社長は最近の YouTube 動画で「トラック EV化は業界下克上のチャンスだから Nikola と組んだ」と述べています。(余談ですが「入社後35年経った後に3年だけ社長の椅子が回ってきても、誰もリスクをとって変革しようとしない」と日本企業に耳の痛い話もされています。)資本も含めた関係はスキャンダルの前も後も変わりません。

Hanwha Group (KRX: 000880) : 関係会社 Green Nikola Holdings, LLC で保有していた 22.1m 株を、2021年6月から12月にかけて半減すると発表。ちょうど現在売り終わった頃か。しかし、中途半端に半分だけ売るような気まずいことをして、今後のつきあいによいことはないだろうから、純投資として妙味がない限りはもっと売ってくるかもしれません。記事によれば上場前の 2018年に $4.5 の株価で入ったので、利益はまだまだ乗っているようです。

Tumim Stone Capital LLC : 謎につつまれた投資家。どうやら 3i Group というインフラ系プライベートエクィティーファンドが運用しているファンドの模様。他の投資例は、Independence Contact Drilling, Inc. (NYSE: ICD) という掘削ドリルの会社と AEye (Nasdaq: LIDR) という LiDAR(自動運転用の光センサー)システムの会社。技術のあるボロボロの会社(いわゆる distressed 系)に大量にコミットするスタイルと見られます。この投資家が、ニコラに対して 2021年に入ってから二度 $300m の普通株引き受け枠を設定。(株式需給への影響については次章)

Tumim はQ3決算時点で、$72.9m 分の普通株 6.27m 株を既に引き受けたそうです。スキャンダルを知って入った大型投資ですので、一定の信頼はもってよいかもしれません。

なお、銀行融資はほとんどなく、JP Morgan との term note の設定が若干ある程度です。したがって、2021Q3 時点での自己資本比率は7割にもなっています。せめて担保資産と同額までは負債調達できないのかなと疑問に思ってしまいます。

3)ニコラ Nikola 株の需給(創業者の売りもこなしていけそう)

まだ売上のたたないベンチャーですので、いろいろな種類の資金調達が繰り広げられていて当然です。また、創業者のスキャンダルも影響します。以下のように整理します。

  • 直近 2021年11月1日の発行済み株式数が 404,377,685 と約4億株。
  • 2020年末の経営者持分 94,400,616 株で、2021年の株式報酬予想が 20m 株相当だから、合わせて約 114m 株。つまり 28% は経営者持分。(複雑になるのでカウントしないが、株式報酬の残高が 53.6m 株という数字もある。これはおそらくほとんどが経営者持分と重複しているだろう。残りは従業員の分に当たるわけだが残念ながら小さいはず)
  • T&M Residual, LLC という創業者と現 CEO のファーストネームを使った持株会社が 39.9m 株と約1割保有。これは現在はニコラ管理下にあるそうだから近々の売り圧力にはならないはず。
  • 上述の欧州トラックメーカーの IVECO が 25.7m 株保有(直近株数ベースでは 6.4% に割合は減少)。
  • 同じく上述の韓国財閥 Hanwha グループは、現在では半減の 11m 株相当の保有のはず(2.7%)。

以上から、47% が安定株主となっており、その意味では株式需給は意外に安定していると言えます。

さて、ここから以下は創業者の売り圧力ならびに希薄化(ダイリューション)についてです。

  • 創業者 Trevor Milton の M&M Residual, LLC が実はずっと売り続けています。2020年末の 79.1m 株から、12月10日の公表の時点で 48.3m 株まで減っています。実に 30m 株も売った計算です(下の写真)。残りが発行済み株数の 12%あります。
  • ワラントは残高が 760,915 株分と1%以下。
  • 先述の投資家 Tumim Stone Capital LLC の合計 $600m の普通株引き受け枠については、まだ実行が $72.9m / 6.27m 株のみ。残りは $527m で現在の株価で想定すると 48m 株と12%の希薄化ポテンシャル。

一方で、1日の売買高は過去3ヶ月平均で約 12m 株もあります。よくも悪くも注目株ですので、創業者の残りの売り圧力は4日分のみ、Tumim の潜在的ダイリューションも同じく4日分。Hanwha の残りの持分は1日分のみです。

先日の初納入がニュースになって、ちょうどこの記事を書く前の取引日の2021年12月23日に株価は18%も上昇していますが、このようなニュースフローがある限りは需給は順調にこなしていけることでしょう。

CNN Business サイトより。創業者は3000万株と、発行済み株数の 7.4% を売却していた。

4)ニコラ Nikola 事業の現レベルと株価判断(生産台数を予定通り伸ばせるかに注目)

上述の初納入は12月17日のリリースで、30台と予定されていたテスト版 BEV Tre がカリフォルニアの港湾トラック運送会社 TTSI に引き渡されたというものです。事業や会社のクレディビリティー(信用性)が問われているだけに、顧客への納入は明らかにグッドニュースです。

ただし、これはまだテスト版であり、この日の納入台数が書かれていないのが気になります。しかもそもそも、これは期待の燃料電池ではなくバッテリーEV です。燃料電池トラックの販売は2023年から2024年とされています。

現在の販売見込みは、以下の Nikola Q3 プレゼンテーション資料の通り。

Nikola Corporation 2021Q3 presentation page 10

現在のコストベースは、足下の数字の実質ベースで(株式による報酬がコストの2-3割と非常に多いがそれも含めて)年間 $500m ぐらい。一台あたりの販売価格が semi truck (大型の Nikola 2 ではなくて 小型の Nikola Tre のことでしょう) $270,000 とネット上に出ていたので参考にすると、上のプレゼテーションに出ているものが1年間の間に全部売れても $61m ですから焼石に水です(しかもこれは粗利でなくて売上です)。

一方、2022年中の生産台数について、アリゾナで 2,400台、ドイツ・ウルムで 2,000台を目指すとのことなので、これがフル生産できて全部売れたとしたら $1,200m の売上(ただしドイツは IVECO との JV)。製造初期の電気トラックの粗利率は全くわかりませんが、固定費も相当に増えるはずなので、ベストシナリオでも2023年にはようやくと赤字削減で 2024年の黒字化を期待させるというところでしょう。なお、現在の時価総額 $4,500m と比べると PSR(株価と売上高の比率) 3.75x ですからこれを織り込んだぐらいでは全く面白くない計算です。

2023年以降にはアリゾナで 20,000台、ドイツ・ウルムで 10,000台というキャパシティー目標のようなので(同 2021Q3 プレゼン資料より)、そこまで行けば単純計算で売上 $8,100m にもなります。費用のカバーは十分になるでしょうし、現在の時価総額 $4,500m との比較で PSR 0.56x ですから株価は激安。成長企業の PSR として少なくとも2倍ぐらい見積もってあげても、株価は4倍のポテンシャルと言うことができます。ここまで期待させてくれる事業展開であれば、大いに買いということになります。

Nikola Corporation 2021Q3 presentation page 6

(ご参考・業界全体感のまとめ記事「水素燃料電池銘柄の本命・トラック関連株」

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