隠れた原発銘柄 ロールスロイス Rolls Royce 【原潜技術で小型原子炉 SMR】
自動車メーカーだと思われているロールスロイス Rolls Royce (London: RR) ですが、既に自動車部門は売却済み。実は今は飛行機エンジンと軍需の会社です。
そして、飛行機エンジン部門は、コロナで飛行機が売れなくなって大リストラ。隠れた黒字部門だったエネルギー発電部門が、ゼロカーボンを目指す社会で、原発需要によって伸びようかというところ。
飛行機部門は元々収益性が極めて低かったので、コロナでリストラを余儀なくされたのは天佑だったと言えるかもしれません(9000人の解雇された従業員には気の毒ですが)。
そして今動き出す小型モジュール原子炉 SMR / Small Module Reactor は、実はなんと同社が過去60年間の原子力潜水艦づくりで技術を蓄積してきた得意分野だったのです。
目次
- ロールスロイス・変身の歴史①【自動車から飛行機エンジンへ】
- ロールスロイス・変身の歴史②【コロナで大リストラと増資】
- ロールスロイスと SMR 原子炉特需
- ロールスロイスの SMR メーカーとしての強み【原潜60年の実績と政府の支援】
- 利益と株価比較【ロールスロイスは大変身銘柄になるか】
1)ロールスロイス Rolls Royce 変身の歴史 ①【自動車から飛行機エンジン、そして原子炉へ】
ロールスロイスは、高級車としてあまりにも有名なブランドですが、1998年から2003年にかけて、BMW に売却されました。また、子ブランドの Bentley は Volkswagen に売却されています。
その後は以下のように、売上の半分が Civil Aerospace こと旅客機用エンジン、残りの半分が Defense こと軍需産業と Power Systems こと発電関連部門です。
旅客機用エンジンについては、エアバス A380 やボーイング 777, 787 など大型の Widebody に強いのが売りのようです。業績ですが、新造エンジンの販売のあとに LTSA / Long Term Service Agreement ということで保守サービスの契約をとる 2倍おいしい商売のはずですが、収益性は芳しくありませんでした(下の表)。
2)ロールスロイス・変身の歴史 ②【コロナで大リストラと増資】
元々収益性の低い主力の旅客機用エンジン部門は、2020年にコロナ・パンデミックを迎えます。
以下の表のように、同 Civil Aerospace 部門売上は £3.0b(約 4700 億円)の大減収、部門利益は £2.6b の大赤字。
会社のリストラ策は以下の通りでした。
- 従業員約 5万人中 9,000 人もの人員削減を含む、£1.3b(13億ポンド・約 2000億円)コストカット(以下の表)
- £2b の rights issue(既存株主への新株予約権の割当増資)
解雇対象者には気の毒で、ハッピーな転職をしてもらえていればと祈るばかりですが、イギリスの製造業ですから、日本の会社のように無駄をなくせない上に、日本人技術者・労働者のような勤勉さはないものと思われます。会社にとっては天佑だったと言えてしまうのではないでしょうか。£1.3b というと売上高の1割にも当たりますから、同じ売上高がキープできれば(きっと「リストラの人員不足による減収」なんて、切られた人には気の毒ですがほとんどないでしょう)、それだけで営業利益率が1割改善する計算にになってしまうわけです。
次に rights issue ですが、これは2020年10-11月に、既存の株主に 10 for 3 ということで3株につき10株もの新株をディスカウント価格で配るというものです。これには95%もが応札したので、およそ £2b の資本増強。これを元でに銀行と債券発行で £3b の融資を受けて、合計 £5b の軍資金アップ。(ただし、現在の発行済み株数は 80億株ほどのはずなので、過去の数字を見るときには要注意)
3)ロールスロイスと SMR(小型原子炉)特需
ここに来て「2050年までにカーボンニュートラル」の旗振りの下に、先進各国でエネルギー転換が推し進められる機運になりました。まだまだ雲を掴むような話ですが、太陽光や風力などの再生エネルギーに加えて、火力発電に代る安定電力源として原子力発電の利用を大幅に増やさなくては成り立たない計算です。
(ご参考記事:「SMR 小型モジュール原子炉についてまとめてみた(特徴と安全性、市場性、課題)」)
イギリスでは、ロールスロイスが16基の小型モジュール原子炉 SMR / Small Module Reactor 建造の計画と報道されています。
一基が £1.8b(18億ポンド・約2800億円)とされていますから、16基だと £28.8b。現在のパワーシステム部門の売上高の10年分にも上ります。記事によれば、2030年までに一基目、2035年までに10基とのことですから2030年台前半は同部門の売上高が2倍になる計算。
さらに、イギリス以外(エストニア、チェコ、トルコ)への輸出も報じられていますが、ロールスロイスでは £250b もの輸出を予想しているそうです。これは同社売上の20倍(!)なので真に受けないとしても、「工場で生産して輸送できる」のが「小型モジュール」の強みということですから、輸出も大いに期待してよいと思われます。
4)ロールスロイスの SMR(小型原子炉)メーカーとしての強み【原子力潜水艦 60年の実績、政府の支援】
実はロールスロイスは、60年も前から、世界第3位の原子力潜水艦保有国であるイギリスの原潜を作り続けてきているのです(一台目だけはアメリカ製だったそうだが、その後は全てロールスロイスによるイギリス製)。最近では、オーストラリアがフランス製原潜を政治的な理由でキャンセルして、ロールスロイス製に変えたとの報道もありました。
この技術の蓄積ゆえに、輸出先の国にとっては説得力満々のはずです。SMR は小型モジュール炉であって、モジュール単位で輸送ができるのが特徴です。いわば「動く原発」である原子力潜水艦のメーカーの SMR には相当の信頼性がおけるのではないでしょうか。
いつも参考にさせていただいている、キヤノングローバル戦略研究所さんの 「小型原子炉SMR徹底解説」 という YouTube での講演でも、米 NuScale (現在のところ SPAC で Nasdaq: SV) に次ぐ SMR メーカーの代表格としてロールスロイスを取り上げておられたことを見て、(「まだ詳細は明らかでない」とのお話ではあるが)業界内でのポジションも確認できたように思っています。
最後に、イギリスの政府の支援について触れておきます。Rolls Royce SMR のサイトでは、4万人もの雇用創出のポテンシャルが謳われています。ボリス・ジョンソン首相も旗を振ってしまった温暖化対策の後ろ盾として原子力支援には前向きな様子。しかも、繰り返しですが「モジュール生産なので工場で部品が作れる」ため、SMR はイギリス国内での雇用創出になります。イギリス政府が、国内建設はもちろん、輸出支援もする必然性が十二分にあります。(ご参考記事: BBC “Rolls-Royce gets funding to develop mini nuclear reactors”)
【注意事項】元々、飛行機や軍需産業の歴史がありますので、政府との商売はお家芸だと思います。むしろ、こういった業種の常として、発展途上国での贈賄で検挙されたことが過去に度々あったようですので、その点は警戒要因です。
5)利益と株価比較【ロールスロイスは大変身銘柄になるか】
リストラでコストベースが £1.3b も下がった上に、飛行機エンジン部門の売上が数年で戻る可能性も十分あり(直近の全社受注残は上の表のように £53.7b と巨額) 、2030年以降は一基だけでも £0.1-0.2b の営業利益が乗りそうな SMR が国内だけで16基。
コロナ前は £1b 弱の営業利益は出せていたので、上記を考えると、税金を考慮しても現在の £10b の時価総額では一桁 PER になるように見込まれます。
世界のエネルギー政策が今の方向性で進むならば、コロナリストラでスリム化した後に、昔からの原潜の技術で伸びる、大変身銘柄になるように期待します。
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