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セクター原子力発電

SMR 小型モジュール原子炉についてまとめてみた(特徴と安全性、市場性、課題)

はじめに(SMR 小型モジュール原子炉について勉強するに当たって)

筆者は個人的には期待の次世代原発「トリウム溶融塩炉 MSR」から、原子力発電を考え直してみることにしたわけですが、現実には世界の今の段階は SMR / Small Module Reactor(小型モジュール炉)という小型原子炉をもって新たな普及を進めるところです。EU 委員会では原発が「グリーン」な発電であると定義づけを変えようという動きが出ています。

SMR の定義にはトリウム溶融塩炉はじめ第四世代の原子炉も含むようですが、現在先行しているニュースケール NuScale 社(現在 SPAC / Nasdaq: SV)やロールスロイス Rolls Royce 社(LSE: RR)、中国やロシアのものは、まだまだ第三世代と言われる従来の軽水炉の延長です。(下の表参照)

ただし、SMR ならではの特徴もあり、福島の反省も生かされています。原発というと常に怖さと疑念がつきまといますが、少なくとも門前払い・思考停止は避けて、勉強はしておきたいと思います。

目次

  1. SMR 小型モジュール原子炉の特徴と安全性(電気がなくても冷却できる)
  2. SMR 小型モジュール原子炉の市場性(火力発電の代替ポテンシャルは甚大)
  3. SMR 小型モジュール原子炉の課題(放射性廃棄物の問題)
(一般社団法人)海外電力調査会「世界の小型モジュール炉の開発動向」より

1)SMR 小型モジュール原子炉の特徴と安全性(電気がなくても冷却できる)

“NuScale Test Facility Tours” on YouTube

これまでの軽水炉(BWR 沸騰水型原子炉・PWR 加圧水型原子炉)とは何が違うのでしょうか? これから先に出てこようという NuScale Rolls Royce、中国・ロシアの SMR は、軽水炉(第三世代)であることには変わりないようですが、以下の特徴があるそうです。

  • 一般的には 300MW 以下の電気出力の原子炉。(大型のものの電気出力は 1,000MW 前後。電気出力は熱出力の 1/3 ぐらいらしいから混同に注意)
  • モジュール生産ができる。これまでの「建設」のイメージと違って、工場でモジュールを作っておいて、現場に運んで組み立てることができる。したがって、低コスト化、経験の蓄積、工場での安定雇用、建設期間の短期化が可能。費用については、従来の原発が $5-10b(50-100億ドル)かかっていたのに対し、SMR では大きめなものでも $1-3b になるそうだ。建設期間については、従来の 10-20年に対して、SMR は 3-4年でできるようだ。
  • 事故の場合、電気やポンプがなくても、重力と自然体流で水冷ができる。(下の図のイメージ。「静的」というのは電気などのパワーを与えなくても冷却できるという意味らしい)これは津波で電気が届かなくなって冷却ができなくなった福島の反省。
  • (少し不思議な気がするが)水の追加供給は不要だそうで、強力な外部電力も不要なため、砂漠や地下でもできるらしい。(中国はゴビ砂漠に建設するのだそうだ)
  • 元々、原子力潜水艦などで60年の蓄積のある技術(例: ロールスロイス)。
  • 安全性・冷却のためには小さい方がよいが、発電効率のためには大きい方がよい。したがって、近年大型化が指向されていると同時に、上の NuScale の写真のように12個もの SMR を連結して、少数の発電タービンに蒸気を送る形もとられる方向。

キヤノングローバル戦略研究所 「小型原子炉SMR徹底解説」 YouTube

2)SMR 小型モジュール原子炉の市場性(火力発電の代替ポテンシャルは甚大)

IEA・世界の電力源推移。下から石炭、石油、天然ガスの順。CO2 を排出する火力発電は合わせて8割。さすがに OECD 諸国だけなら石炭・石油は減少基調入りしているが(別の統計)、世界全体ではまだ全く減っていない。
IEA より。2020年の OECD 諸国のみの電力源。石炭と天然ガスが右半分を占めている。

上の方のグラフのように、世界の電力発電はまだ8割を石炭・石油・天然ガスの火力発電に頼っています。下の方のグラフは OECD だけのものですが、それでも半分近くが石炭と天然ガスの火力になっています。本当に2050年にカーボンフリーを達成するのならば、太陽光や風力などの大成長はもちろんですが、安定電力源として原子力が不可欠である結論になってしまいます。

なお、現在のところ原子力の比率は約1割。2035年までに 20,000 MW 分・70基建造という OECD 予想があるらしいですが、事故さえなければ伸び代はまだまだあると見られます。

(ご参考・誰も書いてくれていないので自分で計算してみた → 世界の電力消費量は 23兆 kWh という数字が出てきたので、1年間 8,760 時間で割ると、出力ベースで 2,625,0000 MW という計算に。そうすると 70基の SMR でやっと世界の需要の 1% 弱をカバーできる程度ということになる)

人類が本当に CO2 を減らすのならば、原発は飛躍的に伸ばさざるを得ない必然性がありそうです。

(ご参考・個別銘柄記事「ニュースケール NuScale の SPAC 上場と株価【小型モジュール原子炉 SMR の筆頭銘柄】」ならびに「隠れた原発銘柄 ロールスロイス Rolls Royce 【原潜の技術で小型原子炉 SMR】」

3)SMR 小型モジュール原子炉の課題(放射性廃棄物の問題)

電気やポンプなしに冷却できるのが SMR の安全上の利点だとのことです。これは大きな改善点でしょう。しかし、放射性廃棄物の議論が残ったままです。

廃棄物処分場としてはフィンランドの「オンカロ Onkalo」(上の動画)が有名ですが、450m の地中に埋めるといのがせめてもの安全対策なのでしょう。(世界のほとんどの廃棄物容器は野晒しであると言われています)

しかし、テロリズムのリスク、予想外の自然災害のリスク、単なる人為的ミスのリスクを1万年単位で負うのは誰でしょう?(トリウムと違ってウランは無害化までに1-10万年かかるとされている) これは年金以上の世代間問題です。廃棄物だけではなく、原子炉そのもののリスクも、同様に廃炉後まで残りますから世代間問題だと言えます。 

我々は CO2 排出による(と思われる)山火事やゲリラ豪雨、温暖化や海水上昇を抑える代わりに、違った負担を将来リスクの形で残しているだけなのではないでしょうか。あくまで電力を必要なだけ使って生活レベルを維持したい人類の業は変わりません。

百歩譲っても、発電による負のリスクを分散しているだけ。電力関連株投資はもちろん、そもそも電力を使うこと自体が、罪深いことだと思い知らされます。

ご注意)
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